若手の縫合が"ユルい"わけ
かなり前から、助手に入ってもらう若手医師の糸結びがかなりユルめで、
新しい医師が赴任してくるたびに、その場での縫い直しや、術後にガーゼの出血量の頻度が上がることがあった。
最近、慢性硬膜下血腫という脳外科業界では初級手術で、材料費の節約も兼ねて皮膚を器械縫合させてみたら、やっぱりユルい...。
そこで、「それはユルいよ。縫い直して」と指示すると、
「いや、皮膚縫いは、ぎりぎり寄るくらいでいいんです」
と返しがくる。
粛々と縫い治しながらではあるが、
「面と面が"皮下"縫いで合っていれば、そんなに強く縛る必要はないんです」
と。
すごく優秀なやつだし、最近の若手はだいたいこういう感じなので、別にカチンとも来ないのだが、むしろ合点がいった。
"よく勉強しているから"ユルく結ぶのか!!
と、ここ5,6年の疑問が解決した。
つまり、皮膚科や形成外科ではそうなのである。
僕自身も、デキる形成外科の手術に入らせてもらって、その皮膚の止血テクニックに感銘を受け、まねするよう心がけている。
そして、止血がしっかりできた状態で皮下縫合、皮膚縫いと移るわけだが、
皮下縫いの段階で、創面がきれいに寄っている。
そして皮下の止血がしっかりしているから、血液が漏れてくることもないし、その結果、皮膚は本当に表面の"寄せ"の問題だけになるのだった。
そして彼ら若手医師は、"きちんと" 外科基礎手技の勉強なりトレーニングをしてきたということだったのだ。
しかし、多くの脳外科手術は、上記の「ユルく寄せるだけでよい」前提条件が違うのである。
つまり、今回の手術は慢性硬膜下血腫であったが、この場合のように中から血液以外の液体が漏れてくるときはそうはいかないのだ。
時間をかけて皮膚・皮下の止血を、高い精度でできる場合で、かつ髄液などの漏れがない状況であれば、ユルくても大丈夫だろう。
しかし、単体で凝固しない液体が漏れてくる場合や、皮膚の切開面からの出血が無視できない場合には、皮膚縫いで圧迫するしかないのだと思う。
ということで、これからは、合理的に説明できると思うと、勉強になる良い助手手術であった。