AI vs 教科書が読めないこどもたち

東ロボプロジェクトという単語は、何度か聞いたことがあったが、そのリーダーの新井紀子先生の著作。

前半では、AIが東大入試に合格できるか(させよう)というプロジェクトを通して、(現在のディープラーニングベースの)AIの限界を示している。
AI, 特にディープラーニングの話だが、その根拠となる数学ができることは論理・確率・統計のみであり、それ以上のことは原理的に無理なのでシンギュラリティなんて来ないと断じている。

そもそも現在のAIが行っていることは統計なので、試験問題を"解く"といっても、統計上の出現頻度から選択しているに過ぎない。
つまり"意味"を理解して答えている訳ではないのである。

しかしそれでも東ロボ君はセンター試験で偏差値56を出しており、センター試験で入れるMARCH、関関同立レベルの点数を取れている。
では、東ロボ君の点数に及ばない高校生は、"意味”を理解しているのか、という問題意識から後半に繋がっている。

後半の結論としては、7割の中高生が教科書の記述を理解できていないという結果。
つまり、"意味"を理解できてない。

しかも中学生では学年が上がるにつれて、正答が増えるが、高校生では変わっておらず、そこから類推すると、それ以降に読解力が改善する見込みは、よほど教師に恵まれないとないのではないだろうか。

とすると、実社会で、「どう理解するとそういう結論になるの?」といった伝達ミス?が起こるのも無理ないのであろう。

この本では、どうやったら読解力を上げられるかについては述べられていない。
性別や、読書習慣、塾通いなどもこのテストには相関がなく、貧困とは負の相関があるという結果のようだ。読解力が十分伸びなかった理由は様々で、おそらく個別的に対応しなければ仕方ない問題なのだろう。

その点で、戸田市の先生が自分たちもこのテストを受け、どうやったら読解力を上げられるか、授業の検討を行っており、因果関係は分からないが、埼玉県内での学力学習状況調査で総合1位になったというのは、本書の数少ない? 明るい話題であった。

3mm以下の動脈瘤は経過をみなくてもよい!?

脳ドック動脈瘤を指摘されたのですが、大丈夫でしょうか?」

と、開業の先生からご紹介いただくことがよくあります。

ご紹介いただく多くの方は、3mm未満の小さい動脈瘤で、
実際には動脈瘤ではないこともしばしばあります。

(動脈の根元がもともと膨らんでいたり、正常な血管の形態が複雑なため動脈瘤のように見える)


2018年1月号のJAMA Neurologyに掲載された論文。

JAMA Neurol. 2018 Jan 1;75(1):27-34. doi: 10.1001/jamaneurol.2017.3232.
Management of Tiny Unruptured Intracranial Aneurysms: A Comparative Effectiveness Analysis.

Malhotra A, Wu X, Forman HP, Matouk CC, Gandhi D, Sanelli P.

https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/article-abstract/2662749?utm_campaign=articlePDF&utm_medium=articlePDFlink&utm_source=articlePDF&utm_content=jamaneurol.2017.3232&redirect=true

未破裂脳動脈瘤が見つかって、「自分に動脈瘤がある」と知ってしまうだけで、quality of life (QOL)が下がることが知られています。
(脳ドック不要論の根拠の一つにされたりもします。)

それなりに大きくて、いびつな形をしている動脈瘤があれば、治療を勧められたりしますが、3mm未満の動脈瘤に関しては、以前にも書いたように、経過観察というのが妥当な判断です。

その際、"次のMRI (もしくは血管の評価) はいつするか?"ということに関して、脳外科医がみな、同じように考えているわけではありません。
例えば、何度6ヶ月毎に検査して、変化がなければ1年に1回にという具合でしょうか。

ただ、「ではその半年間に出血を起こさないか?」と言われると、"絶対に起こさない"とは言えませんが、その確率はすごく低い、ということです。
しかも、「出血するときも動脈瘤の大きさは変わっていない」という論文もあり、(税金を使って役に立たない検査を行う) 経過観察の意味って何?という意見もあります。
(動脈瘤が大きくなる方も、100人に2,3人いるので、そのために行っているということになるのでしょう)


そこで、上記論文ですが、
QALYによる評価で考えると、3mm未満の動脈瘤は経過観察"しない"のが最適である
という結論です。

QALYというのは”全く問題なく健康に過ごせる1年"の場合に1、死亡したら0というquality of lifeの評価法です。(死ぬより苦しい1年はマイナスになります)
英国では、新しい薬剤などの審査(保険適応)基準に、1QALYを改善するのに£2000~3000以上は出さない、とされているようです。

上記論文では、
3mm未満の動脈瘤を指摘されたひとは、これがある状態で残りの人生を過ごすことになるわけですが、経過観察の間隔(1,2,5年, 経過観察なし、見つかったら治療)によって、その生きている間のQOLの総和を求めています。

この間に、「増大があれば治療(コイル塞栓)する」「治療によって合併症が起こるとQOLが下がる」「コイル後も増大(再発)の可能性がある」「コイル後も出血のリスクがある」などの場合分けを行い、Markovモデルを作成。生命表から平均余命を計算しています。
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結局、治療してもQOLが改善する可能性もないので、それなら経過を見ない方がよい。

結構乱暴な議論であり、血管内の専門家に言わせれば、
小さい動脈瘤は簡単ではないにしても"治療の合併症率、再発率、死亡率が高すぎる”
ということになりますし、

開頭術の立場(俎上にも上がってないですが)、
"そんなに再発しないし"
ということになります。

ただ、前提が3mm未満の動脈瘤なので、個人的には経過を見る必要はないと思うのですが、外来での患者さんの心情を考えると、5年に1回くらい(論文ではsecond best)に1度経過を見る、でよいと思いました。




ちなみに、見つかったら治療、という選択肢は
"年間出血率が1.7%以上なら"
最適な選択になるようです。

自然歴論文のバイアスを考えると、5mm以上の動脈瘤は普通にこれくらいはありそうですが、統計学的な証明は無理そうです。

若手の縫合が"ユルい"わけ

かなり前から、助手に入ってもらう若手医師の糸結びがかなりユルめで、
新しい医師が赴任してくるたびに、その場での縫い直しや、術後にガーゼの出血量の頻度が上がることがあった。

最近、慢性硬膜下血腫という脳外科業界では初級手術で、材料費の節約も兼ねて皮膚を器械縫合させてみたら、やっぱりユルい...。



そこで、「それはユルいよ。縫い直して」と指示すると、

「いや、皮膚縫いは、ぎりぎり寄るくらいでいいんです」

と返しがくる。



粛々と縫い治しながらではあるが、
「面と面が"皮下"縫いで合っていれば、そんなに強く縛る必要はないんです」
と。

すごく優秀なやつだし、最近の若手はだいたいこういう感じなので、別にカチンとも来ないのだが、むしろ合点がいった。


"よく勉強しているから"ユルく結ぶのか!!

と、ここ5,6年の疑問が解決した。


つまり、皮膚科や形成外科ではそうなのである。

僕自身も、デキる形成外科の手術に入らせてもらって、その皮膚の止血テクニックに感銘を受け、まねするよう心がけている。
そして、止血がしっかりできた状態で皮下縫合、皮膚縫いと移るわけだが、
皮下縫いの段階で、創面がきれいに寄っている。
そして皮下の止血がしっかりしているから、血液が漏れてくることもないし、その結果、皮膚は本当に表面の"寄せ"の問題だけになるのだった。

そして彼ら若手医師は、"きちんと" 外科基礎手技の勉強なりトレーニングをしてきたということだったのだ。


しかし、多くの脳外科手術は、上記の「ユルく寄せるだけでよい」前提条件が違うのである。

つまり、今回の手術は慢性硬膜下血腫であったが、この場合のように中から血液以外の液体が漏れてくるときはそうはいかないのだ。

時間をかけて皮膚・皮下の止血を、高い精度でできる場合で、かつ髄液などの漏れがない状況であれば、ユルくても大丈夫だろう。
しかし、単体で凝固しない液体が漏れてくる場合や、皮膚の切開面からの出血が無視できない場合には、皮膚縫いで圧迫するしかないのだと思う。

ということで、これからは、合理的に説明できると思うと、勉強になる良い助手手術であった。

バターコーヒーダイエット

一時期テレビでも流行ったようであるが、バターコーヒーダイエットをここ2年半くらいやっている。

シリコンバレー式 自分を変える最強の食事

シリコンバレー式 自分を変える最強の食事

内容は下記でも
https://blog.bulletproof.com/start-the-bulletproof-diet/

もともとは手術を受けていただいた患者さんがきっかけで、その方も110kgくらいから10kg以上痩せたということだった。

僕自身は、幸いダイエットの必要はないのだが、その方曰く、
「 午前中の”覚醒度”が上がって、仕事もはかどるようになった」
というところに興味を持ったのがきっかけになった。

ちなみに子供のころから、朝ご飯はしっかり摂るように言われて育ったので、よほど具合が悪いということがなければ、
(ご飯+味噌汁+目玉焼きなど)を35年以上続けた後の大変革(実験)である。

そんな液体だけで、昼ご飯まで持つのだろうかと思っていたが、
実際に始めてみると、確かに、腹持ちが良くて昼まで間食しなくてもあまりお腹は空かない。
また、糖質を(あまり)摂らず、カフェインを摂っているので、以前は通勤の電車から眠くてしかたなかったのだが、それがなくなった。

その結果として、毎朝のカンファレンスで寝てしまうことがなくなった(汗)。
また、 朝ご飯を作ってもらうことに気を使わなくて済むので、早く出勤することもできるようになった。

生産性に関しては?だが、午前中の眠気は絶対的に少ないので外来には役立っていると思われる。

長期的に健康に寄与するかどうかという点では?だが、
コーヒーの血管系への有用性などの報告は最近でも見られており、よいのではないだろうか。

 「科学的に証明された究極の食事」について書きました(2018/08/10).

「バターが身体に良いわけないだろう」的なオビにつられ、読んでみたが、多分「タイトルから期待される内容」ではない。

https://www.kimura4bestoperation.com/blog/evidence_based_diet

compression wear

5月に日本赤十字社医療センターに異動してきたが、加齢のためか、病院がデカいためか、帰宅する頃には凄く足がだるくなります。

概ね病院を出る頃には、1万歩近く歩いている状況なので仕方ないのかもしれません。

そこで何か都合のいいギミックがないかと物色したところ、静脈灌流障害だろうから、やっぱり弾性ストッキングなのではということで、圧迫グッズを物色し、Skinsの製品を購入しました。

結論としては、帰宅時の疲れ具合が明らかに楽になっており、最後の最寄り駅の階段でもぐったり感なく上れるということでお勧めです。
因みにCEAやシャント手術のような立ち手術にもお勧め。

唯一気になる点として、徐々にずり下がってくる問題があります。

で、洗濯もしないといけないので、&やはり日本製を、と思ってCW-Xも購入してみました。

こちらはフィット感はSkinsより良く、ずり下がらないのですが、膝下の圧迫が強めで、1日中履いていると圧迫部が痛くなってくることが判明。
運動時のみの使用になりました。

参考になれば幸いです。