3mm以下の動脈瘤は経過をみなくてもよい!?

脳ドック動脈瘤を指摘されたのですが、大丈夫でしょうか?」

と、開業の先生からご紹介いただくことがよくあります。

ご紹介いただく多くの方は、3mm未満の小さい動脈瘤で、
実際には動脈瘤ではないこともしばしばあります。

(動脈の根元がもともと膨らんでいたり、正常な血管の形態が複雑なため動脈瘤のように見える)


2018年1月号のJAMA Neurologyに掲載された論文。

JAMA Neurol. 2018 Jan 1;75(1):27-34. doi: 10.1001/jamaneurol.2017.3232.
Management of Tiny Unruptured Intracranial Aneurysms: A Comparative Effectiveness Analysis.

Malhotra A, Wu X, Forman HP, Matouk CC, Gandhi D, Sanelli P.

https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/article-abstract/2662749?utm_campaign=articlePDF&utm_medium=articlePDFlink&utm_source=articlePDF&utm_content=jamaneurol.2017.3232&redirect=true

未破裂脳動脈瘤が見つかって、「自分に動脈瘤がある」と知ってしまうだけで、quality of life (QOL)が下がることが知られています。
(脳ドック不要論の根拠の一つにされたりもします。)

それなりに大きくて、いびつな形をしている動脈瘤があれば、治療を勧められたりしますが、3mm未満の動脈瘤に関しては、以前にも書いたように、経過観察というのが妥当な判断です。

その際、"次のMRI (もしくは血管の評価) はいつするか?"ということに関して、脳外科医がみな、同じように考えているわけではありません。
例えば、何度6ヶ月毎に検査して、変化がなければ1年に1回にという具合でしょうか。

ただ、「ではその半年間に出血を起こさないか?」と言われると、"絶対に起こさない"とは言えませんが、その確率はすごく低い、ということです。
しかも、「出血するときも動脈瘤の大きさは変わっていない」という論文もあり、(税金を使って役に立たない検査を行う) 経過観察の意味って何?という意見もあります。
(動脈瘤が大きくなる方も、100人に2,3人いるので、そのために行っているということになるのでしょう)


そこで、上記論文ですが、
QALYによる評価で考えると、3mm未満の動脈瘤は経過観察"しない"のが最適である
という結論です。

QALYというのは”全く問題なく健康に過ごせる1年"の場合に1、死亡したら0というquality of lifeの評価法です。(死ぬより苦しい1年はマイナスになります)
英国では、新しい薬剤などの審査(保険適応)基準に、1QALYを改善するのに£2000~3000以上は出さない、とされているようです。

上記論文では、
3mm未満の動脈瘤を指摘されたひとは、これがある状態で残りの人生を過ごすことになるわけですが、経過観察の間隔(1,2,5年, 経過観察なし、見つかったら治療)によって、その生きている間のQOLの総和を求めています。

この間に、「増大があれば治療(コイル塞栓)する」「治療によって合併症が起こるとQOLが下がる」「コイル後も増大(再発)の可能性がある」「コイル後も出血のリスクがある」などの場合分けを行い、Markovモデルを作成。生命表から平均余命を計算しています。
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結局、治療してもQOLが改善する可能性もないので、それなら経過を見ない方がよい。

結構乱暴な議論であり、血管内の専門家に言わせれば、
小さい動脈瘤は簡単ではないにしても"治療の合併症率、再発率、死亡率が高すぎる”
ということになりますし、

開頭術の立場(俎上にも上がってないですが)、
"そんなに再発しないし"
ということになります。

ただ、前提が3mm未満の動脈瘤なので、個人的には経過を見る必要はないと思うのですが、外来での患者さんの心情を考えると、5年に1回くらい(論文ではsecond best)に1度経過を見る、でよいと思いました。




ちなみに、見つかったら治療、という選択肢は
"年間出血率が1.7%以上なら"
最適な選択になるようです。

自然歴論文のバイアスを考えると、5mm以上の動脈瘤は普通にこれくらいはありそうですが、統計学的な証明は無理そうです。