対照的なお二人

先日の外来で、未破裂脳動脈瘤が指摘されている2人の方が来院されました。

両方とも初回ではなく、経過を見ているかたです。


一方は"自分と同年代"で、3mm程度の小さい動脈瘤をお持ちの方ですが、
紹介元でも「治療した方がいいかもしれない」と言われたということ。

確かに少し形がいびつなところがあり、気にはなるものの、統計上は年間の出血率0.3%(300人に1人)程度。
小型の動脈瘤はコイル塞栓術も難しいので、治療を行うなら開頭術だと思いましたが、
治療のリスクも(後遺症の危険性はほぼないとは言え)0とは言えないので、
子供さんが大きくなるまでは経過を見たいということ。

積極的に治療を勧める状況でないので、この外来での結論としては「経過観察でいきましょう。血圧が高くなるようならその治療をしましょう」ということになると思いますが、なかなか結論に到達しないです。

動脈瘤をお持ちの方からすれば、「大丈夫ですよ!」の一言を期待されているのだと思いますが、
「じゃあ100%大丈夫なの?」と問われると100%ではないわけです。

こちらとしては、可能性が低くても、くも膜下出血を起こして、「大丈夫って言われたので治療しなかった。どうしてくれるんだ」と詰問、場合によっては訴訟になることも想定してしまうので、やはり経過観察で「大丈夫」ということは言えないのです。

結果的には、お互いなんとなく釈然としない空気を漂わせながら、相談を終えることになります。



もう一方は、割とご高齢の方ですが、

3~6ヶ月毎の検査の度に動脈瘤が少しずつですが増大している方です。

去年のうちに5mmを越えており、
「ああ、今回も出血せずに済んで、良かったですね」と思いつつ、
このような方に関しては、(余命が期待できるのであれば) 強く治療をお勧めします。

動脈瘤の増大は、出血の危険因子であることはいくつかの論文でも言われており、
5mm未満の小型動脈瘤の調査であるSUAVe studyでも増大したものは治療されています。

("いくつかの論文で"というのは普通は増大が分かった時点で治療を勧められるので、それ以降の観察がされにくいためだと思われます)

で、前回・前々回 同様、強く治療を勧めるし、自分でも治療してもらうでしょうというお話をしましたが、同伴された息子さんから強い経過観察希望があり、MRIの予約としました。

増大していても治療しないのであれば、経過を見る必要もないように思われます。
大きくなっていても必ず出血するわけではないですし、やはり治療リスクが0ではないので、現在の知見を伝え、治療(の妥当性)を提案したところで自分の役目は終わっていると思うよりほかありません。

結局、大きさがxx mmだから治療 !という単純な答えにはならず、受け手のリスク評価、人生観などを推し量りつつ説明して、治療する・しないに関わらず納得感が得られるようにお話しするしかないです。