フレイルについて

今日は心臓血管研究所から山下武志先生を招いての心房細動の研究会でした。

循環器科がホストで、脳外科の若手が前座ということで参加してきました。

まず最初の話が、現在、日本で死亡数が昭和初期と同数になってきていることを提示。
もちろん、年齢構成が全然異なり、現在は80歳以上の方の死亡が大きな割合を占めます。
「この(80歳以上の)死亡をどう減らしていくかが問題です!!」

http://cocolomi.net/2013/10/31/年間死亡者数と死に場所/
より

って、
「はぁ?何言ってるの? 人口ピラミッドを考えても、そこのセグメントが増加するのは当たり前でしょ?一体何歳まで生かせれば気が済むのさ、循環器の医者は!?」
と思いましたが、後から考えると、これはいわゆるツカミでしたね。

その後
「心房細動が見つかった場合にはCHADS2 scoreによって塞栓性合併症の予防にという話になるわけだけれど、実際に心房細動が見つかった後、(多分5年の間に)起こるイベントは心不全や死亡です。脳卒中はごく一部」
脳卒中を"ディスる"展開。

この辺りからチョット面白いなと思い始めましたが、
心房細動があって、腎機能障害(eGFR<30)があると、5年で半分は死亡。COPD(慢性閉塞性肺疾患)も同様。
さらに転倒・認知症があっても死亡・心不全などのリスクが高い。

脳卒中が問題になるのはごく一部!!」

...そうですよね。
そもそも心房細動自体、心臓がへばってきているから起こるわけだから、そう言われるとその通りなのです。

だとすると、(高齢者の)脳卒中はなんのためにやっているのでしょう?
一つは若くして脳卒中を起こした方をできるだけ社会に戻すということでしょう。
高齢の方でも、軽い脳梗塞脳出血であれば社会生活に戻れる方も多いので、そこもありだと思います。

その他の部分は?
山下先生曰く、
「何も治療しないのは、本人・家族にとっては見捨てられたと感じるものです。なので急性期の治療についてはありだと思います。」
(この点に関しては首肯する部分もあるものの、自分の意見としてはまとまっていません。)


そこで、心房細動の治療に関して、もっとも考えるべき事は?

「第一は全体像の評価です」
つまり、家族の方を含めた患者背景、全身状態などを評価するということ。
そのために"フレイル"という考え方を提示されました。

"フレイル”
...日経メディカルか何かで特集されていたようにも思いましたが、ほぼスルーしていました。
とっさに聞いて日付が答えられる
横断歩道で点滅するまでに渡り終えることができる
体重減少はないか
etc
これらの指標から精神状態を含めた全身状態を把握します。

そこでフレイル、つまり身体のホメオスターシスが維持できなくなっている状況の場合には、
ガイドラインに沿った治療をしても仕方がない。
というか、死亡・心不全など様々な終末的な状況が、容易に起こり安い状況であるというわけです。

言い換えると、脳卒中対策の治療をしていても、心不全になったり消化管出血を起こして、結局は寝たきり、死亡に至るリスクが無視できない。というか、何をやってもそういう状況に陥る可能性が高いということです。

これは外科医としては、非常に納得がいく話で、
印象論として実年齢が80歳とか85歳でも、かくしゃくとしていて非常に元気な方もいれば、60歳代でもかなりよぼよぼとしていて、チョット手術とか考える状態ではないですね、という方もいらっしゃいます。
つまり、"手術になるような状況じゃないね"と、常々思っていたような状態がフレイルと呼ばれるものだったのです。

そうすると、そのような方には、たとえ飲み薬の治療であっても、やるだけ無駄、とは言わないものの、統計的には健康寿命を延ばせない、ということになります。

そんな方に例えば降圧薬を処方しても、厳密にコントロールができていた方の方が寿命が短いことが、データで示されていました。

「80歳以上の方の寿命を延ばすことはできません。が、フレイルになっていない方の健康寿命を延ばすために何ができるか」
ということが主旨だったということです。

そのために、必要であれば経口抗凝固薬を処方することになるけれど、
長期的なことを考えると、1日1回の内服で、出血が少ないDOAC(=エドキサバン=今日の後援)という話に。

eGFR >30であれば30mg/dayで十分ワーファリンより良いという話で、これはこれでシンプルで良かった。

質疑応答では
うちの若手から、どういう方は循環器にコンサルトするべきか? という質問があり、
左房径40mm未満などで、治療可能な心房細動はreferして欲しいということ。

僕からは
「内科の先生で、ワーファリンでPT-INRを厳密にコントロールする方が合併症が少ない、という方がいますが、今後は減っていくのでしょうか?」と
曰く、
「徐々に減っていくでしょうね。いったん切り替えると、採血が不要で、ポリプを切除するときなどでも点滴のための入院が不要など、メリットが大きいので。」
これには、同僚の内科医が反応を示して、
「一定の病態では、ワーファリンの方がいいと思います!!」
曰く、
血栓がある場合には、どうしてもDOACでは血中濃度が下がったときに血栓の再形成を起しやすいので、その場合にはINRでコントロールがよいだろう」と
...
そもそも、非弁膜症性心房細動に対する適応でマクロの結果がいいということなので、個別的な案件を持ち出しても仕方ないように思われる.


ただ、やはりDOACは高価なので、自己負担6万円/年を継続するのは難しい場合もあることは言及されていた。
(心臓血管研究所は六本木なので、大丈夫でしょうが...)


いつもは脳関係の話ばかりなので、非常に勉強になりました。