伸縮包帯

毎度、不思議に思うのだが、医者になるまで包帯の巻き方を教わることもなかったし、脳外科の研修医になった後も、具体的の教わることはなかったように思う。
唯一、後頭蓋窩の手術で、術後に髄液漏が生じたときには、とにかく創部に圧が加わるようにぐるぐる巻きにするんだと教わったし、別の上級医にはガーゼを用いた、今考えても割と合理的な巻き方を教わった。

NTTでは後頭蓋窩の手術は多いものの、基本的に糸で水漏れしないように縫えるようになっているし、DuraSealという便利なシール剤があるのでこのような圧迫は過去の話になってきているようにも感じられるが、いざ髄液がたまってくると、結構面倒なことになる。

今朝、昨日のIC-paraclinoid動脈瘤の患者さんの回診にいくと非常に頭が痛いと仰っており、よく見ると包帯がきれいに巻かれすぎている。この"きれいに"というのが曲者で、包帯をきつめに巻くと頭部の形がきれいに出るので、なんとなく良いような気がするのだが、実際には包帯が締め付けすぎていて、患者さんは禁錮呪を唱えられた孫悟空のような頭痛に苛まれていることがしばしばある。
伸縮包帯と呼ばれる、いわゆる包帯はそれ自体若干伸び縮みするため、引っ張りながら巻くと、聴力でだんだん締め付けが強くなってしまうのである。
なので、ガーゼの表面を転がすようにして巻く、というのが一般的に正しい巻き方なのである。

件の患者さんは包帯を解くと、まさに孫悟空のように頭痛から解放された。

一概にきつく巻くのが悪い訳ではなく、例えば特に原因なく皮膚からのじわじわした出血が止まりにくい場合には包帯による圧迫止血が有効なこともあるかもしれないし、前述のように髄液漏が起こっている場合にも仕方がないことがある。しかし、包帯一つとっても漫然とやっていては、満足してもらえる結果は得られないのだ。