「チームの力」著者講演会

病院の医療安全講演会があり、「チームの力」著者 西條剛央先生の講演があった。

西條先生は、東日本大震災の際に、被災住民の自立のため重機免許取得プロジェクト、家電配布プロジェクトなど様々なボランティアのチームを立ち上げた方。
「チームの力」には、様々な価値観・関心を持つ各ボランティアあるいはそのチームを生かすため、元々の研究テーマである構造構成主義の考え方を用いて、どのようにオーガナイズしたか、腐心したかが述べられている。

と、科の医療安全担当でもあるので、予習して望んだ。動員もあったのだろうが、カンファレンスルームは立ち見の出る盛況で会ったが、正直なところ講演の内容に関しては残念としか言えないものであった。
まずストーリーが散漫で、構造構成主義の概要から、人間の原理、方法の原理など、非常に表面的・あるいは簡単に述べてロジックが掴めない。
それぞれの内容に関しては、予習しているから、"本のあのことを述べているのだな"ということは分かったが、大半の聴衆には何のことか分からなかったのではないか。
講演時間が決まっていて、聴衆の全てが著書を読んでいるわけでもなく、構造構成主義に造詣が深いはずもないのだから、せめて「方法の原理」ならそれに絞って話される方が良かったのではないか。

また、PowerPointを用いて話されるのは良いし、話す順番も医療従事者向けに構成を変えて下さったのかもしれないが、それならせめて、順番を変えた別ファイルを作るべき。トピックが終わってスライドショーモードから出て、またスライドを選んでスライドショーを開始するというのは、行き当たりばったりの印象を与える。

結局、使い回しのスライドで、ちょっと病院のホームページを見て、「ま、こんな話をすればいいだろう」的な調子で講演されたように思える(あくまで主観)。
講演し慣れている方は、もちろんそれでもなんとかなるし、腹落ちする話ができるのだろうが、この方は、少なくとも講演者としてはそのレベルにはないと思われた。
もちろん、震災の際にボランティアのリーダーとして大きな成果を上げられたことは凄いことだし、少なくとも「チームの力」は面白いためになる本である。
しかし、それとかしこまった聴衆相手に話す能力は同じではないことが再認識できた。

これは結局、慣れていないのであれば、きちんと準備することが大事ということであり、4分の学会発表でも、スタッフ向けの勉強会でも同様、聴衆が費やしてくれている時間を無駄にしないという意識が大事である。


一応、予習までしたので、質問させていただいたが、特に大災害のボランティアなどは、被災者の助けになりたいという思い(ベクトル)が同じ方向を向いている。一方、我々の病院の様な大きな組織は、必ずしも全員の向きが同じとは限らないと考える方が自然である。その場合、病院の"理念"が大まかな向きを与えるものになるが、その理念を浸透させるためにはどのような手段を取るべきか。経験やsuggestionがあれば教えて欲しいというもの。

それに対しては、アイリスオーヤマなどの例をあげ、朝礼などで毎回暗唱し、宗教や軍隊のようにやるのが良いと思われるとの回答。言葉は心を作る、ということか。

Dr.中谷は、震災ボランティアのような短期のチームと、病院のような長期の継続性が求められる組織でチームとして進歩していくためには?みたいな内容の質問をされていた。

これに対しては、アイリスオーヤマの例を出して次々新しいことをやっているということを述べていたが、これはややfocusがずれた答えのように思われた。

中尾さんからは、新人が自分の意見を言えるようにするには、という質問があったが、
「本当に意見を言ってもよい」という空気を作ることが重要という、まさにその通り、構造構成主義とはあまり関係なさそうだが、全うな回答。
「一番偉い人が一番優しくならないと、(そういう空気を作るのは)難しい」
これは、参加者全員にためになる話しかな。