「この手術はカンタンですか?」

患者さんやご家族に、
「この手術は難しい手術ですか?」
と聞かれることがある。

あるいは、「難易度的にはどうですか?」と問われることもある。

本当に難しい、脳幹に癒着した実質性の血管芽腫とか、eloquent areaのAVM、脳底動脈先端部の巨大動脈瘤などを除けば、難しくないといえば難しくないが、カンタンか?と言われると話はそれほど単純ではない。

簡単か、難しいかはあくまで相対的な評価だが、
大きい聴神経腫瘍だって、”顔面神経and/or蝸牛神経を温存して" "全部取る(total/subtotal resection)する"という2つの前提を満たそうと思うと非常に難しいが、どちらかの条件を追求せずに、例えば"5割取ってあとは放射線"という作戦で良ければとたんに難易度が下がる。
ただし、このような方針では聴神経腫瘍研究会などで発表することもないだろう。

人口の7%内外が一生のうちに経験するといわれる盲腸(虫垂炎)は、一般の方でも外科の最初に経験する手術出あることはご存じのようだが、例えば慢性硬膜下血腫が虫垂切除より簡単か、と言われるとこれも即答はできない。手回しドリルで頭蓋骨に孔が開いたところで寸止めしようと思えば難しいと言えるし、通常のクラッチ付きドリルを使うのならおそらく虫垂炎より技術的には簡単だろう。

どの手術でも、前提条件によっては簡単になったり、難しくなったりするわけです。

ただ、外科医は自分の裁量の範囲内で、最善を尽くそうと普通は考えるのであり、合併症を起こさない範囲で、傷が小さいとか、腫瘍をなるだけ残さないとか、動脈瘤も母血管ぎりぎりまで閉鎖するということを考えるせいで、主観的には難しくしているんだろうな。