NEJMの動脈瘤症例

先週の記事だが、New England Journal of Medicineという臨床医学では最も権威のある雑誌に巨大血栓動脈瘤の症例が紹介されています。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1513571


79歳の女性が、おそらく動脈瘤による圧迫とそれによる水頭症で、錯乱、記憶障害、失禁などの症状を来していたとのこと。

"家族と"話しあった結果、水頭症に対して姑息的なシャント手術だけ行って、近くのクリニックに紹介となり、"ちょっと"よくなったらしいという結果。


興味深い症例報告ですが、
1. 左側の巨大動脈瘤(と水頭症)が原因で、それらが改善されれば意識もかなり良くなることが期待できるところを、家族の同意で済ますことは倫理的に許されるのだろうか。

正常な判断能力が失われている患者さんの場合には、やはりご家族の意向に沿うよりないでしょう。
ただし医療者側の説明の仕方によっては、かなり印象が変わってくる症例だと思います。

こういう圧迫の強い症例は、圧迫がなくなると、こちらが思っているよりも良くなる方が多いのも事実ですが、簡単な手術ではありません。
なので、
動脈瘤水頭症を治療すれば50%くらいの確率で、かなりもとの認知機能が回復すると考えられます。40%くらいの確率で現状維持か、少し悪くなるかもしれません。残りの10%は今より悪化する可能性です。」
といった説明になると思いますが、この50%とか10%というのは、医療者側がそう思っているだけで、このような比較的稀な疾患では科学的根拠はありません。
たくさん経験していれば、経験に基づいた数値で話すことはあります。
これが、
「手術をすれば良くなる見込みはありますが、放っておけば徐々に悪化して寝たきりになります」という説明だと、印象が変わって、日本人的には治療を選択する気がします。

2. ところが水頭症の治療だけで済ますというのは、?なところがあります。

この症例では、動脈瘤が第3脳室を圧迫しているために水頭症になっていて、それも意識が悪いことに影響していました。
ただ、水頭症が改善してもそれほど大勢に影響しないであろうことは、動脈瘤のサイズなり脳の浮腫の具合を見れば分かると思います。

もしかすると、水頭症を治療して良くなったら御本人の意見も聞いて考えましょうというプランだったのかも知れません。
ただ結果的にはこれで外科治療が終了しており、だったら何もしない方が良かったのでは?と思います。


ご高齢の方でも、リスクはあるけど治療すれば良くなる見込みが十分ある、巨大髄膜腫とかこの症例のような巨大動脈瘤の方を見ることがあります。
もちろん、簡単には答えは出ないですが、脳の萎縮がひどいとか、脳の病変を直しても自立した生活は無理、ということでなければ、"きちんとした"治療を考える方がよいように思いました。