投資型医療

大学同期の著作。

医療が「実際にやっていること」と「医療にできること」との間には大きなギャップがあって、
もっと「医療ができること」を上手く使うことによって、われわれはもっと健康な生活を、もっと少ない費用で手に入れることができるはず、という内容です。

耳が痛いですが、今、医療がやっていることは"トラブルシューティング"であって、本当なら 本格的な病気や重症になる前になんとかできたはず、ということが、まず二人の仮想患者を例に挙げられています。

そのストーリーはちょっと盛りすぎでは?と思う一方で、実際に目にする患者さんでも、「どうしてあのときxxしなかったのだろう」とか、「もう少し早く○○しておけばよかったのに」ということは頻繁にあります。
(行動経済学的にはヒューリスティックの一つですが)

しかも、そのトラブルシューティングの効率が悪く、例えば糖尿病や血圧がコントロールできているのは、治療を受けている患者さんのごく一部に過ぎず、コントロール不良の方がやがて人工透析になったり、失明したりという悲惨な状態になって、余計に社会資本が必要になっているというのが現状です。

これは、例えば糖尿病のコントロールで言えば、どれくらいの患者さんがうまく血糖値をコントロールできていて、合併症を抑えられているかという結果(アウトカム)が公表されていないことも一因です。
患者さんは、口コミや○○ランキングといった雑誌くらいしか判断基準がなく、結局、家の近くだからとかテレビに出ている医者がいるとかいう理由でしか判断できないのです。
アウトカムが積極的に出されれば、提供者側(病院側)もいい意味で成績を良くしようという競争が生まれるはずです。
(現状は、職員の接遇や建物の見た目を良くしようという、"分かりやすい"とんちんかんな方向にしか競争が働いていないですね。)

現状では病院には成績を公表するインセンティヴはないです。(そんなことをしてもお金にならないので。) ただ前職のNTTのように、ホームページに提示する病院も増えてきてはいます。

「医療ができること」はもっと範囲が広く、深刻な病気になる前になんとかする方法はいくつもあるのだから、それを積極的に利用すべきです。

著者はそれを投資型医療と名付けています。
つまり
健康に投資し、健康という資産を維持・増進するための価値の高い医療
と定義しています。


そう、健康は資産なんです。


著者は、投資型医療を実現するために7つの提言を行っています。

それぞれいいこと言っていますが、受益者は医療の重要なプレーヤーであり、当事者意識を持って主体的に医療に関わっていこうと述べています。
また、支払い側もアウトカムを重視して、質の高い提供者を選んだり、交渉したりすることでより価値の高いサービスが報われるようにできるとしています。

アメリカ型のtoughな保険者になると、払ってもらう側は非常に困りますが、日本の保険者は、(お金を握っているのに!)存在感が薄い。
病院側は困るにしても、もっと上手いお金の使い方があるのでは?
インセンティブを工夫することで、もっと健診の受診率を上げたり、その段階で引っかかる人に対する介入を増やすことが一番できそうなのは、やっぱり支払い側だと思います。

同意する部分が大半ですが、田舎や下町の病院と都心の病院を比べると、やっぱり健康に対する意識が大分違っているように感じます。
特に自分の健康に無頓着で、若さと体力でなんとかなっている30代40代の人に、どうやって情報を届けていくか、自分の身体を気にするようにしてもらうか、というところが大事だと思いました。