90歳に脳外科手術?

今週は、症候性で、かつ元気ではありますが、御年90歳の頸動脈内膜剥離術(CEA)を執刀させていただきました。
"脳卒中の手術"全体にしても議論がつきないところではありますが、
高齢者の手術をどこまで行うか、という点に関しては常に悩ましい部分があります。

巷間いわれているように、現在の高齢者は、現役時代に支払った社会保障費を考えると、明らかに収支が超プラスであり、その状況下で90歳のご老人に手術をすべきかということに関して、収支マイナス世代の人間としては引っかかりを感じざるを得ない訳であります。

手術によって寝たきりになるリスクを減じることができるとするならば、寝たきりの方を介護する医療費をtotalで下回れれば、社会的な手術の効果はあるといえるのかもしれません。

また、本症例では、反対側A1、および同側Pcomが低形成であったため、内頸動脈が完全に詰まってしまえば、大脳の6割が脳梗塞になり、死んでいたかもしれません(それまでに中途半端な脳梗塞を起こして寝たきりの可能性もある訳ですが)

ただ、90歳ということで、症状を悪くすると、"馬鹿なことをやってからに"と責められるかもしれないという、暗黙のプレッシャーがあるため
1. とにかく全力で手術時間を短くしないといけない
2. 特に脳血流遮断時間を短くして、手術合併症を減らすよう気をつける必要がある
という点において、術者の集中力を高め、手技の精度を高める効果があると考えられ、
そうすることによって、今後同じ手術を受けられる、より若い方にとってもプラスの点があるのではなかろうかと考えている次第です。

また、年齢だけで区切るというのも実際にはおかしな話で、50代でも既に心臓もバイパス手術がなされていて、ちょっと水分コントロールに失敗すればすぐに心不全になってしまうような方と、テニスを始めた90代の方を比べてどっちが手術のメリットを享受できるかというのは、個別に検討するよりほかないわけです。
ただ、失敗した場合には容赦なく攻撃されうるということ。