手術の練習道具の費用は補助されるべきか

切る、縫う、結ぶは外科手術の基本です。
なので、研修医の頃は豚肉を買ってきて、器械台の上に出したけど使わなかったメスを持って帰って切る練習をしたり、余った針糸でそれを縫ったりするということをしますし、手術着やそこら辺に転がっている椅子に糸を通して結ぶ練習をしたりします。

脳外科や形成外科ではさらに顕微鏡操作が加わるので、これも余ったり、消費期限切れになった糸を使って、卓上顕微鏡下に縫う練習をしたりするわけです。
ところが顕微鏡手術に用いるような9-0 とか10-0という太さの張り付き糸は、もともとそんなに術野に出すわけでもなく、1本数千円するので消費期限切れになる程は在庫を置かないわけです。

で、どうするかというと、これも手術機械屋さんが練習用の非滅菌糸を売っていて、これを利用するわけですが、これも1本500~1000円くらいします。
私が一番この練習をしていた頃、つまり田舎の病院で毎日23時まで働いていた頃は、遊ぶところも特にないですし、一番下っ端なので、空き時間はずっと練習しているわけですが、その練習用の糸1本は2〜3日でなくなってしまいます。(30~50knots)。
まあ、結構な出費になるのですが、これはそのまま自分の技術に繋がる訳なので自己投資であり、また田舎の病院だったので、給料が良かったのもありますが、科として買ってもらうという発想さえなかったです。

さて、今いる病院では、当然そのような補助はないのですが、先日”買ってあったりしないんですか?" と言われ、まず質問の意味が分からんかったのですが、練習用の糸を脳外科で購入してあったりしないのかということのようです。
たしかに奥さんが産休中で、生後3,4ヶ月のお子さんがいるので気持ちも分からないではないのですが、やっぱり自腹でやるから集中して練習できるんじゃないでしょうか?

この辺から、自分でも考え方が古いんだろうなと自覚していますが、彼らが給料に見合った働きをしているとはどうしても思えないんですよね。
たとえば、抄読会で発表する準備をするとか、手術に入って開頭したり閉頭したり、あるいは顕微鏡操作をしたりというのは、給料に反映されていると思っているんでしょうか?
これらは寧ろ彼らのためにやっていることであって、お金を払ってもやるようなことなのではないでしょうか?
昔、今日赤医療センターの幕内先生が東大にいらっしゃったとき、40過ぎるまでは親に食わせてもらえとおっしゃって、研修医が激減したという話をきいてさもありなんと思いましたが、多分同じような感じかも知れません。

つまり、彼らが少なくとも病院の経営に貢献していること、もしくは患者からお金を取れる業務というのは、当直、外来と、術後の創処置、処置の入力、術前後の指示などの手術の付帯業務です。もちろん、誰もやりたがらないという意味ではそれなりの給料を得る理由にはなりますが、それでも私はともかく、主任医長や部長とそれほど変わらない給料をもらっているという不合理をもっと自覚するべきだし、授業料を払えとは言わないものの、自分への投資をけちるというのは全くもって許容できないのです。

ま、自分が歳をとってきたというだけかもしれないんですけど。